怖い歯無し

 みちのく怪談コンテストのネタ探しに、『新装 日本の民話2 東北(一)』(ぎょうせい)を読んでいる。
 そこに収録されていた「はなしの話」という物語が、何か怖い。「笑い話」の項目に分類されているけど、怖い。
 ざっくりとした粗筋は以下。

 ある村に、笈を背負った山伏がやってきた。早池峰山に願掛けに行く途中だと言う。
 村の禰宜堂に泊まらせて貰ったその山伏は、「山参りに言っている間、荷物を預かっておいてくれ」と、背負ってた笈を残して、翌朝早くに出かけてしまった。
 ところが、その山伏、二日経っても三日経っても帰ってこない。
 困ったのは、荷物を預かった村人たち。あの山伏は道に迷ったのか、それとも行き倒れになってしまったのか。
 取り敢えず荷物の中身を検めてみるべぇとなって、その笈を解いてみると、中からでてきたのは、何と人の生首だった。
 その生首は、男性とも女性ともわからない顔をしている。
 男だべか女だべか、村人たちは散々悩んだ結果、その生首の口を開けてみることにした。女であれば、歯を黒く塗っているはずだからだ。
 で、みんな集まり、生首の口を開いて覗き込んでみたのだが、それがさっぱり歯無しだったんだとさ。残念でした。ちゃんちゃん(笑)。

 
 とまぁ、こんな話。


 いやいやいや、生首なんてあんた、猟奇事件じゃないですか。しかも男か女かわからないってんだから、きっと相当腐敗してたのでは……。

 一体その山伏、何者なんだよ。早池峰山に何を願掛けに行ったんだよ。
 そこらへんの当然の疑問をすっ飛ばして、終始、生首の性別にだけ拘泥している村人たちが、わけが分からなくて気持ち悪い。


 タイトルの「はなしの話(はなし)」というシャレが、この物語の骨子になっているんだとしても、何もそんな猟奇的な前フリにしなくてもなぁと思う。どうにも生首のインパクトと、オチのどうでも良さとのギャップが、妙な居心地の悪さを形成している。


 これ、本当に「笑い話」として伝えられてきたのかなぁ……。
 実はこの物語の原型には、身の毛もよだつような凄惨な結末が用意されていたんだけど、諸事情により後半部分がぶっつり削られ、無理やり「笑い話」としての態に作り替えられてしまったのではないかと、要らん想像をしてしまう。その秘された結末の残滓が、土地に伝わる童謡の歌詞に込められてたりしてね。もうほとんど横溝正史の世界。
 や、まぁ、それはさすがに妄想を逞しくし過ぎだろうけど、「山伏が生首を置いていく」ってプロット自体は、もともと別の物語だったのかもねとは思った。